チョン・スチャン著 斎藤真理子訳『羞恥』
[本紹介]
オリンピックは商売だ!選手村建設にわき立つ町で、追いつめられ崩れ落ちていく脱北者。大事なものを失った哀しみの中に、韓国社会の今を映し出した名編。
これは本の帯カバーに書かれている文句です。原著である전수찬『수치』は2014年に韓国で発売され、邦訳本は2018年にみすず書房から出されました。訳者は斎藤真理子さんです。韓国文学をよくお読みになる方なら、一度は聞いたこと見たことある方だと思います。翻訳に関して信頼しております。
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内容は、脱北者の心情を強く引き出して描いてます。韓国社会において、脱北者は以前のように英雄として扱われることはなくなり、場合によっては邪魔者扱いされ、苦しみながらも生活しています。脱北者の心情を中心にするというよりは、心情を通して韓国社会を知ると言った方がより適切かなと思いました。
自分は、本の内容よりも、後ろにある訳者解説に少しフォーカスしていきたいと思います。このことに関して最新の詳しい解説する方はいませんでしたし、まさに専門なので、どのように書かれているのか、すごい興味を持って読んでいました。
結論から言うと、結構よかったです(まあ、まだ修士号習得していないお前が言うなよと突っ込み入りそうですが)。データに関しては最新のを使ってほしかったなと思うところもありましたが、全体的な構成は良かったと思います。定着支援制度の詳しい解説は、さすがにページ上難しかったと思いますし(紹介するだけでも一冊の本にできるレベル)、それでも読むうえで必要なところを抜き出していたと思います。
ただ、中国政府の脱北者の扱い方に関しては、少し補足説明が必要かなと思います。まず、中国政府が脱北者を北朝鮮に送還するのは、明確に二国間で条約を結んでいるからです。協力関係から難民と認めず、見つかったら北朝鮮に送還されるというのは少し言葉足りずかなと思いました。
脱北ルートに関しては、解説中にもあるように映画『クロッシング』(キム・テギュン監督、2008年公開)と『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』(ユン・ジェホ監督、2016年公開)を見ていただけると良いかなと思います。
個人的には、北朝鮮離脱住民に関して知りたいと思ったら、この本を一回読むことをお勧めします。さらに気になったら、脱北者の方が書いた本を読む。そしてもっと知りたくなったら、韓国語勉強して、韓国の論文や学術書を読んでください。それが一番だと思います。